クラシック音楽のある毎日

アクセスカウンタ

zoom RSS 佐々木隆治『カール・マルクス』(筑摩書房)

<<   作成日時 : 2017/03/15 17:38   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

佐々木隆治『カール・マルクス』(筑摩書房=ちくま新書)という本を読み終えた。
著者の佐々木氏は1974年生まれで、現在、立教大学経済学部准教授とのことである。現在、「新マルクス・エンゲルス全集」の編集に取り組んでいる気鋭の経済学者らしい。
本書は、昨年2016年4月10日の刊である。

本書を読み終えて非常に良書だと思った。マルクスの入門書として最良なのではないだろうか。

本書は第1章「資本主義を問うに至るまで 1818〜1848年」、第2章「資本主義の見方を変える 1848〜1867年」、第3章「資本主義とどう戦うか 1967〜1883年」の3章で構成されている。

まず第1章では、マルクスの生まれ育ちから主著『資本論』を執筆するに至るまでの思想の変遷・形成が述べられる。

第2章は、『資本論』でどのようなことが述べられているかの紹介である。ここでは、有用労働と抽象的人間労働、価値と使用価値、不変資本と可変資本、絶対的剰余価値と相対的剰余価値のようなマルクスは資本主義経済を分析するのに用いた枠組みが、分かりやすく解説される。このようなことは、マルクス経済学の入門書ならどの本にも載っているのだろうが、本書での定義や具体例の挙げ方は非常に分かりやすく適切だと思う。
さらに著者の佐々木氏のオリジナルと思われる個所もある。

佐々木氏は次のように述べる。
「人々が生産物をつうじて結びつけられている社会においては、実際に、人間ではなく、生産物のほうが社会的な力をもつ。人間たちが生産物をコントロールするのではなくて、価値をもった生産物、すなわち商品が人間をコントロールする。(中略)このように、市場システムにおいて人々は生産物の力に依存することによってしか経済生活を営むことができないので、この生産物の関係が自立化し、それによって自分たちの生活が振り回されるようになる。」(122頁)
そして、このように社会関係を取り結ぶ力を持つにいたったもののことを物象といい、人間の経済活動が生産物の関係によって振り回されるという転倒した事態のことを物象化という、とする。

物象化というと、ハンガリーのジョルジュ・ルカーチや、日本の廣松渉先生が有名だが、佐々木氏のいう物象化は、詳しくは省略するが、ルカーチとも廣松先生とも異なっている。

第3章は、本書のユニークなところである。凡俗のマルクス入門書は、思想形成から『資本論』の内容紹介までで終わっている。しかし本書は、資本論執筆以降の晩期マルクスに重要性を見出す。
マルクスは、その後の世界の推移を見て、資本主義経済が恐慌に陥りそこで革命が起きるという「恐慌革命論」を撤回した。そして労働時間短縮に取り組んだり、労働者のアソシエーションを重視したり、人間の自然との物質代謝を資本がかく乱していると見て農学や地質学の勉強をしたことを、マルクス自身のノートや手紙から明らかにしていく。
マルクスがエコロジーやジェンダーのような、21世紀の今日まさに問題になっているテーマについて、先見性を有していたことがわかる。
この晩期マルクスへの言及は、入門書ではほとんど見られない点で、実はマルクス経済学者の間でもあまり研究が進んでいないのではないだろうか。この晩期マルクスに焦点を当てた第3章は、本書の白眉だと思う。

グローバル経済が進展し、世界中のいろいろな面で格差が拡大した今日の世界の抱える問題点は、19世紀の思想家だったマルクスの思考枠組みを用いて考察すると、驚くほど的を得ている、と感じることが多い。
第2次世界大戦直後は、ケインズ理論に基づく混合経済(資本主義と社会主義の混合という意味)が欧米や日本で主流となったため、マルクスの思考はあまり役に立たなかったように思う。1980年頃からの新自由主義経済の進展により、資本主義経済の抱える問題点が噴出するようになり、マルクスの先見性もまた明らかになった。
このカール・マルクスという大思想家は、もう一度注目を浴びるべき存在だ。
本書・佐々木隆治『カール・マルクス』は、マルクスに興味を持つ方への絶好の入門書である。




テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
佐々木隆治『カール・マルクス』(筑摩書房) クラシック音楽のある毎日/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる