リヒテルのベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第30番」

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今日はスヴャトスラフ・リヒテルの演奏するベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第30番作品109」を聴きました。録音は1991年10月、ライブ録音のようです。

ぼくは、前にこのブログに書きましたが、ベートーヴェン後期の5曲のピアノ・ソナタの中では第31番作品110が最も好きでいます。しかしその前の第30番もなかなか好きでいるのです。この曲は、どこか天上の音楽を聴いているような第1楽章で始まります。聴いてすぐにベートーヴェンの後期のものだとわかります。そして急速な第2楽章を経て、この曲の白眉である変奏曲形式の第3楽章に入ります。
この第3楽章は長大で、このリヒテル盤で12分10秒かかります。曲全体が18分16秒ですから、第3楽章が全体の3分の2を占めることになり、曲全体のバランスを失するほど長くなっています。しかし晩年のベートーヴェンは、もはや何ものにも囚われない心境にあり、曲全体のバランスなどということは考えなかったのでしょう。
さてこの第3楽章は、「歌うように、心の底からの感動を持って」というベートーヴェン自身の注意書きが添えられています。実際のこの楽章は、後期のベートーヴェンならではの、越し方を回想するとともに行方に思いを馳せ、さらに人々への慈愛と神への祈りまでもが感じられるのです。ピアノ・ソナタ第32番第2楽章の変奏曲とともに、彼の書いた真に感動的な楽章ではないでしょうか。

リヒテルの演奏は、今年「RICHTER THE MASTER」と題してDECCAから発売されたリヒテルの1980年以降のシリーズのVolume1に収録されたもので、Philips原盤をDECCAがリマスターしたものです。実はぼくはこの録音がPhlilipsレーベルから発売された時(約15年前のことです)購入したのですが、演奏があまりピンとこなかったのですぐに中古店に売却してしまったのです。久しぶりに再会したのですが、これが意外と(?)といいのです。

テンポは予想されるように第1楽章は遅いものですが、第3楽章はあまり遅くありません。ベートーヴェンの指示からすれば、これくらいのテンポは維持してほしいと思われるようなテンポです。演奏は晩年のリヒテルらしくインスピレーションの感じられるようなものではありません。1960年代頃のリヒテルの豪快なピアニズムはすっかり影を潜めています(ただし第3楽章にその一端が感じられますが)。一見すると緩慢な演奏に感じられます(昔のぼくもそう感じたのだだと思います)。しかしよく聴いていると、淡々として、訥々としていて、心優しい老人の語りを聴いているようで、全く独特の味わいがあるのです。(昔のぼくにはそのように聞く耳がなかったのです。)
リヒテルには、バックハウスのような謹厳さ、ケンプのような暖かい詩情は感じられせん。しかし彼はベートーヴェン晩年の作曲活動と同様、何ものにも囚われず、心の赴くままに弾きたいように弾いています。その意味ですごく素直な演奏です。リヒテル晩年の平穏な心境を聞いているような気持ちになれるのです。これは考えすぎかもしれませんが、旧ソ連の体制下で自由を抑圧され様々な苦悩を強いられたリヒテルが、体制崩壊とともに得られた心の平穏が聞き取れるように思うのです。いつまでも心に留めておきたい演奏です。

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この記事へのコメント

2007年08月29日 09:48
 おはようございます。
 ベートーヴェンのピアノソナタシリーズも、一気に進んできましたね。
 バッハ顔負けのフーガがあるので、実はわたしも31番が一番好きなのですが、今日みたいにすずしくなり、これから秋めいてくると、無性にこの30番(特に1楽章)が聴きたくなります。
(どうせすぐまた暑くなるのでしょうけれど)
 ご紹介のリヒテル盤も、ぜひ聴いてみたいと思います。
2007年08月29日 21:35
Noraさん、コメントを有難うございます。
またベートーヴェンのピアノソナタ・シリーズのことを
覚えて頂いていましたか。お蔭様で、残りは1~8、23、
29、32の10曲になりました。
私は30番より31番の方が好きですが、この辺は個人の
趣味の問題で、いずれ劣らぬ名曲なのだろうと思います。
リヒテル盤は個性的でしょうね。
ご購入になるしたら、Philipsレーベルから出ている(?)
国内盤より、この「RICHTER THE MASTER」というDECCAの
シリーズの方が2枚組約2千円から2千5百円なのでお買
い得だと思います。

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