ルース・レンデル『殺意を呼ぶ館』(扶桑社)

ルース・レンデル(小尾芙佐訳)『殺意を呼ぶ館』上・下(扶桑社=扶桑社ミステリー)という本を読み終えた。
昨年から今年にかけて桐野夏生さんの小説を読んだ影響で、異常心理をテーマにした小説を読みたくなったのだけど、ぼくはここ10年以上読書というとビジネス書や政治経済の本が中心で、小説自体をあまり読んでいなかったので、異常心理をテーマにした小説といってもどのような本があるのかわからなかった。そこで20年くらい前に何冊か読んだルース・レンデルの本を読んでみた。

この『殺意を呼ぶ館』という小説は、イギリスの人里離れた館の別館(ゲートハウス)で暮すイヴ(38才)とライザ(16才)の母娘が登場して始まる。イヴは明日警察官が来るので、明朝ロンドンに行くようライザに話す。しかしライザはロンドンに行かず、恋人ショーンの下に身を寄せる。そしてライザはショーンに、夜ごとに、生い立ちから今に至るまでの自分の成長物語を語ってみせた。それは電話もテレビもない、社会と隔絶されたゲートハウスで、イヴがライザを学校にも行かせずに自分で教育を施して育てていった物語だった。そしてイヴはその間、数回にわたり殺人を犯していた…というストーリーである。

本作はミステリーというよりも普通小説といった方がいいと思う。確かに殺人が起きたりイヴの過去が明らかにされていったりするが、ライザが、母親の恋愛を目撃したり、こっそりテレビを見たり、鉄道の廃線反対のデモに巻き込まれるなどして、イヴの徹底した庇護にもかかわらず1人の女性として成長していく物語という側面が強い。イギリスの田園風景の描写、特に草花や鳥の描写は中々優れていると思う。そしてラストには感動が待っている。

このルース・レンデル、また別の小説も読んでみたいのだけど、残念なことに、かつて角川文庫から大量に出版されていたレンデル作品は『ロウフィールド館の惨劇』を除きすべて品切れのようだ。レンデルは、この小説の解説(香山二三郎)で書かれているようにイギリスでは女男爵に推挙され上院議員になるほど人気作家だけれど、日本では人気が出ないようだ。
今は品切れ書もアマゾン・マーケットプレイスなどインターネットを利用すれば、容易に入手できるようになったので、ぼくも今後あまり不便は感じないと思う。
しかし日本では、レンデルのストーリーの構成と心理描写の力量の評価は低すぎるのではないだろうか。

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この記事へのコメント

2007年10月01日 10:04
 アルトゥールさん、おはようございます。ルース・レンデル ですか。若い頃読みました。と言っても2冊しか読んでいませんが。「わが目の悪魔」と「殺す人形」です。お書きになられているように、サイコサスペンスです。前者は男性2人、後者は女性2人の異常心理を書いたものです。レンデル のサスペンスが書店に並ぶようになった時代は、クリスティ のブームが落ち着き、カトリーヌ・アルレー が名作「わらの女」を出し、アルレーブーム の到来というよころでしょうか。アルレー は殆ど読みました。上品な クリスティ から一転、悪女、完全犯罪の妙に惹かれたものです。「わらの女」「黄金の檻」「死の匂い」女性の書く怖いプロットがたまらなくて・・・
 懐かしい女性作家の名前を拝見したものですから・・・
 どうも失礼致しました。
2007年10月01日 18:41
my favorite storiesさん、コメント有難うございます。
私もレンデルはずっと前に2冊読んだだけです。「わが目の
悪魔」と「引き攣る肉」でした。前者は仰るように毎晩マネ
キンの首を絞める独身男を主人公にしたサイコサスペンスで
、印象に残っています。しかし仕事が忙しくなり、それっき
りとなっていました。レンデルを読むのは今回が本当に久し
ぶりでした。「殺す人形」も読んでみたいです。

カトリーヌ・アルレーは懐かしい名前です。但し「わらの女
」を読んだのは中高生の頃で、悪が完成して終わり後味が悪
かったので、あまり読みませんでした。もう1作「目には目
を」という小説を読んだだけと記憶しています。今から考え
ると精神的に未熟だったのですね。

どうもコメントを有難うございました。今後とも宜しくお願
い申し上げます。
2007年10月10日 08:02
おはようございます。
ルース・レンデル、私も何冊か読みました。
もう随分昔の話ですが、20年は経っていないと思います。
『ロウフィールド館の惨劇』、ご紹介のあった『殺意を呼ぶ館』と同じく、文盲という設定がすでに社会から隔絶されていますね。
ひたすら字が読めないことを隠す主人公に共感できないのは、彼女の異常なまでの無感動のせいでしょうか。
一種異様な精神状態で読み終わったような記憶があります。
古いところではアガサ・クリスティの『終わりなき夜に生まれつく』も同様の感想を持ちました。
2007年10月10日 08:18
aostaさん、おはようございます。
コメント有難うございます。
恐縮ですが『殺意を呼ぶ館』のライザは文盲ではなく、
古典や語学について母親イヴから直接高度な教育を受け
たのですが、社会的な事柄については何も教えられず、
その上社会から隔絶された環境に育ったため、世の中
のことは何も分からない、という設定です。
そのライザがちょっとした機会や恋人ができたりして、
だんだん成長していくともに、イヴがなぜこのような
世捨て人のような生活を送るようになったのかが段々
明らかになっていく、という物語です。
この物語はもう普通小説といってよいと思います。

実は『ロウフィールド館の惨劇』、数日前に買ったの
ですよ。電車の中ででも読もうと思っています。
の範疇に
2007年10月11日 07:06
おはようございます。
「文盲」だったのは、『ロウフィールド館の惨劇』の主人公のほうです。
書き方が不十分で判りにくかったですね。
字が読めないことで一般社会との断絶されているという意識の中で生きていく女の物語です。自らの文盲をひたすら隠し続けてにして何十年かを生きてきた彼女が最後に選択したこと・・・

これからお読みになるのですから、このくらいに(笑)

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