黒木亮『巨大投資銀行 上・下』(角川文庫)

黒木亮『巨大投資銀行 上・下』(角川文庫)という本を読み終えた。
作者の黒木氏は、現代での経済小説の作家として屈指の存在である。ぼくは黒木氏の小説は、昨年『トップ・レフト』(角川文庫)という本が初めてだった。続いて『アジアの隼』(祥伝社文庫)という本を読んだ。『トップ・レフト』『アジアの隼』ともたいへん面白かった。それでこの『巨大投資銀行』が角川書店から文庫化されると、迷わず購入したのだった。

読み終えての感想からいうと、たいへん面白かった。
主人公は桂木英一という米系投資銀行モルガン・スペンサーのインベストメント・バンカーである。この桂木が中心となって物語は展開していくが、副主人公としてソロモン・ブラザーズ東京支店の竜神宗一とソロモン・ブラザーズ本社の藤崎清治という2人の人物が登場する。そして桂木の物語と、竜神、藤崎の物語という3つの物語が同時に進行していくという構成を取っている。
桂木と藤崎は親交があるが、両者とも竜神とは面識さえなく、また3人は仕事上の接点はない。

桂木は元々都銀大手・東都銀行の行員だったが、1985年、銀行内での理不尽さに愛想をつかしてモルガン・スペンサーに転職、ニューヨークの本社勤務となる。そして同社のジャパン・デスクで実績を上げるが、1988年、同社の東京支店のM&A部門から来てほしいという要請があり、ニューヨークでの慣れない生活を送っている妻のことも考えて、東京に戻り、M&A担当となる。以降、バブルの崩壊とそれに続く不景気の中、誠実に着実に仕事をこなしていく。

解説に書かれているように、本書で描かれている出来事の大部分がノン・フィクションである。実名のまま出てくる企業や人物も珍しくないし、仮名に変えてある企業も、容易に実在の企業の想像がつくようになっている。
本書は2003年まで続くが、ぼくは読んでいて、まるで、1985年から2003年までの20年近くにわたる日本の金融界、それにとどまらず日本の経済界の激動の歴史を描いた大河ドラマを読んでいるような気持ちになった。そして本書を読みながら、バブル時代の日本企業による米国企業の買収や、バブルの崩壊、それに続く不況などの社会背景と、実際に起きた出来事を思い出して、懐かしい気分に囚われた。記憶の彼方に消え去っていて、「そう言えばそんなことがあったなあ」と感じる出来事も少なくなかった。

本書を秀逸なものにしているのは、作者の黒木氏の金融に関する本物の知識である。
黒木氏は、本に付いているカバーで略歴を見ればわかるように都市銀行、証券会社、総合商社に勤務し、実際に投資銀行業務に携わった経験の持ち主である。そのような経験の持ち主でなければ書くことのできない場面も多い。たとえばトレーディングに関する知識は、一般人はもちろん、銀行・証券会社の社員でさえ、ほとんどの人が知らないような事柄だ。
それだけでなく、ニューヨークのウォール街やロンドンなどの街の描写も、実際に暮らしたことのある人でなければ書き得ないほど詳しく、そして的確だ。

かといって一般の人が興味を持てないような内容では決してないと思う。むしろ誰でも楽しく読むことができ、また主人公の桂木の生き方に共感を覚えるサラリーマンも多いのではないだろうか。ぼく個人は、桂木だけでなく、藤崎のハードボイルドな生き方にも憧憬を感じた。またこの手の小説の付き物の色恋沙汰が一切登場しない点がいい。

こうした実際の経験に基づく本物の知識と、一般人の感性を忘れない庶民感覚が、黒木氏を、他の経済小説の作家と比べていちだんとすぐれた存在にしているように思う。

ともかく文庫化(本年10月25日)されてから今まで、ぼくは、本書のおかげで、電車の中を楽しく過ごすことができた。






巨大投資銀行(上) (角川文庫)
角川グループパブリッシング
黒木 亮

ユーザレビュー:
これが投資銀行だ!投 ...
感慨深いです投資銀行 ...
投資銀行がわかる、で ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ

巨大投資銀行(下) (角川文庫)
角川グループパブリッシング
黒木 亮

ユーザレビュー:
金融マンとは上巻では ...
素晴らしいが・・・素 ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック