アラン・グリーンスパン『波乱の時代 特別版』(日本経済新聞出版社)

アラン・グリーンスパン(山岡洋一訳)『波乱の時代 特別版』(日本経済新聞出版社)という本を読み終えた。
本書は、2007年に刊行(日本では2007年11月に出版)されたアラン・グリーンスパン『波乱の時代』の特別版であり、2008年9月9日出版の原著ペーパーバック版に追加されたエピローグを訳出したものだという。この『特別版』の日本での刊行は、本年2008年10月7日である。
本文だけで50頁程度の小冊子である。

本書は2007年刊行の『波乱の時代』(本ブログでも取り上げた)の特別版であるから、当然同書の内容を補うものとなっている。すなわち、2007年から2008年前半までの、世界的な金融危機とその原因について語るものとなっている。
その反面、2008年後半におきた出来事、すなわちリーマン・ショックに始まる金融危機の深刻化と、姿を見せ始めた世界的な実体経済への影響については述べられていない。その点では中途半端な書だといえるかもしれない。

グリーンスパン氏は、今回のサブプライム・モーゲージ問題に始まる金融システムの危機の原因について、リスクが割安に振れすぎていたせいだという。すなわち市場参加者のバブル時の陶酔感はいつまでも続くものではない。いつかは恐怖心に変わる。それが急激におきたのが今回の危機だったのだ。

グリーンスパン氏が34頁以降で「脱線になるが」と断った上で述べている計量経済学の話が興味深い。
すなわちブーム時には分散投資の理論に基づいて、様々な資産から相関係数がマイナスになっている資産同士を組合せ、リスクの軽減を図っていた。ところが2008年8月以降、これらの資産の間で上昇と下落が相殺しあううような状況でなくなり、どの資産も一斉に下落するようになり、リスク資産に巨額の損失が発生したのである。
どうしてそうなったのか? 従来の経済モデルが、ケインズが「アニマル・スピリッツ」と呼んだ人間の反応を十分にとらえていなかったからだ。これまで複雑になり高度化されてきたモデルも、まだ不十分だったのである。

では、今後どうなるのか? 政府はどう対応すべきか?
グリーンスパン氏は言う、「今後数年以内にまず間違いなく、経済はこれまで慣れ親しんでいたものとは様変わりするだろう」。
また政府の対応策として、米国で投資銀行ベア・スターンズ救済の際採られた手続きを法制化することなどが述べられている。

グリーンスパン氏は、当然のことかもしれないが、彼の思想を中核をなす自由市場主義の立場を全く変えていない。
「金融規制当局は、わたしの経験では、市場の知識という点で民間セクターのリスク管理者よりはるかに不利な立場にある。」(42頁)
「…金融市場の規制を増やすべきだという主張がさまざまにだされているが、そのほとんどははるかに説得力に乏しいと思える。…特に問題の多い新商品は失敗に終わっている。投資家はそうした商品に資金を投入していないし、将来も投入するとは思えない。」(49頁)
「経済を中央計画当局の下で組織化し、高度な知識を持つエリートが運営することで、競争市場よりもすぐれた解決がはかれると考えた人たちは、過去一世紀に繰り返し失敗してきている。」(52頁)

FRB議長を20年間務め、在任中「マエストロ」と称えられ神格化されてきた人物の言葉は、重い。


追記 アラン・グリーンスパン『波乱の時代』の本編について書いた拙記事をトラックバックしました。




波乱の時代 特別版—サブプライム問題を語る
日本経済新聞出版社
アラン グリーンスパン

ユーザレビュー:
言い訳がましいし、分 ...
賛辞に値する名著 既 ...
評価を落としたマエス ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • アラン・グリーンスパン『波乱の時代 上・下』(日本経済新聞出版社)

    Excerpt: アラン・グリーンスパン(山岡洋一・高遠裕子訳)『波乱の時代 上・下』(日本経済新聞出版社)という本を読み終わった。本書は1987年から2006年まで、18年もの間、FRB(米連邦準備理事会)議長の職を.. Weblog: クラシック音楽のある毎日 racked: 2008-12-06 17:29
  • 消費しかできない者

    Excerpt: 米GMAC、公的資金注入の決定受け自動車ローン拡大へ- yahoo びっくりですね。サブプライムローン、これって信用力が少ない人でも借りれたローンです。経済活性を目的として... Weblog: 暇人短剣符 racked: 2009-01-03 04:39