石井邦生『わが天才棋士・井山裕太』(集英社インターナショナル)

石井邦生『わが天才棋士・井山裕太』(集英社インターナショナル)という本を読み終えた。
今年10月、囲碁界に新星が現れた。わずか20歳4ヶ月の史上最年少で名人位を獲得した。井山裕太八段である。本書は、井山新名人の師匠である石井邦生九段が、わずか6歳の時の井山との出会いから、今年9月に張ウ名人(当時)に挑戦するまでを書き記した成長の軌跡である。

lここで、ぼくの個人的な井山新名人の思い出を書いてみたい。
ぼくは時々息子(中2)に囲碁の相手をしてもらう程度で、囲碁の雑誌等は読んでいないから、昨年の秋、井山裕太七段(当時)がわずか19歳の若さで張名人の挑戦者になるまでは、井山のことはあまり知らなかった。
新聞の囲碁欄で井山の打碁を見て、攻めてよし守ってよし、地でも厚みでもいけるオールラウンド・プレーヤーだという程度の印象だった。

昨年秋、井山は第33期名人戦七番勝負で初めてビッグ・タイトルへの挑戦権を獲得した。NHK衛星第2放送で放映された張名人(当時)と井山の名人戦第1局が、事実上自分の目で見た初めての井山だった。
見て驚いた。井山の態度が実に堂々としているのだ。
初めての大舞台だから、普通の棋士なら緊張とか物怖じのようなものがあるのではないだろうか。しかし井山は、ごく自然に、ごく普段の対局のように張名人との碁を打っていた。
手前味噌になるが、ぼくはこの時、井山のことを何十年に1人の大物だと思った。当時まだ19歳だったが、この名人戦はダメでも1年以内にビッグタイトルを取ると確信した。

昨年の第33期名人戦で井山は3勝4敗で張名人に惜敗した。
しかし今年の第34期名人戦で井山は、挑戦者決定リーグ戦で8戦全勝のすばらしい成績で再度の挑戦権を獲得した。
第34期名人戦7番勝負の第1局は、張名人が半目勝ちという僅差で制した。しかし非勢と見た張名人が鋭い勝負手を仕掛け、それが奏功して半目差の勝負をもぎ取ったような勝利で、碁の内容自体は井山の方が良かった。
第2局は井山が勝ち、1勝1敗で迎えた第3局が、今年の名人戦のハイライトだったと思う。ぼくはこの碁をビデオ録画して観戦した。

この第3局は終盤まで井山優勢の碁だったが、一瞬の隙をついた張名人が猛攻を仕掛け、張名人の攻めが決まるか井山がしのぎ切るか、ぎりぎりの勝負になった。
その時、井山は持ち時間を使い切り、1分碁のなっていた。井山が着手すると、張名人は間髪いれずノータイムで着手する。井山に少しでも考える時間を与えないためである。テレビ解説者はきわどい勝負になったと語っていた。ぼくの素人目にもそう見えた。だが井山は、いっこうに顔色を変えない。
ここで井山は、素人目には鮮やかなシノギの手を放った。ここで、それまでノータイム打ちだった張名人は数分考えた。井山の妙手を見た瞬間自らの敗北を悟り、自分を納得させるための数分間だったのだろう。その後数手で張名人は投了した。
井山のシノギの妙手は、この7番勝負の行方を決める一着だったように思う。
事実井山は、続く第4局、第5局に連勝し、4勝1敗でついに名人位を獲得したのである。

さて本書『わが天才棋士・井山裕太』は、当時6歳の井山と出会い、その才能にほれ込んだ石井邦生九段が、井山を育ててきた回想録である。井山が今年の再度の名人位の挑戦権を獲得する対局の当日の朝、石井九段が必勝の祈願に出かけるところで始まり、14年前の井山との出会いに遡り、以降井山の成長の歩みを振り返り、7番勝負が始まる直前で終わっている。

著者の石井九段の井山に賭ける愛情、期待、喜び、驚きが素直に綴られている。その誠実な性格と井山にかける愛情が、井山の天賦の才能を開花させたことがよくわかる。2人3脚で歩んだ師弟のこの14年間を伝える興味深いドキュメンタリーだと思う。

ところで著者は、「親バカならぬ師匠バカ」と何回も称している。その師匠バカぶりが最も現れたのは、本人はそう思っていないかもしれないが、井山の打碁を著者自らが解説した第6章だろう。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック