黒木亮『貸し込み 上・下』(角川文庫)

黒木亮『貸し込み 上・下』(角川文庫)という本を読み終えた。
ぼくが黒木亮さんの小説を読むのは、昨年の秋に『巨大投資銀行 上・下』(角川文庫)を読んで以来、1年ぶりのことだった。またぼくはこれまで、黒木さんの小説を『トップ・レフト』『アジアの隼』、それに『巨大投資銀行』と3作読んだことがあり(この中で、『トップレフト』と『巨大投資銀行』は本ブログで取り上げたことがある)、今回の『貸し込み』gが4作目ということになる。

『貸し込み』は、ニューヨークでブティック型の投資銀行を営む主人公・右近祐介の許に1本の電話が掛ってきたところから始まる。
電話の主は、宮入治という右近の会ったことのない老人だった。宮入は現在、日本の大手都市銀行・東洋シティ銀行との間で、自分の妻で脳梗塞に倒れた宮入悠紀子と東洋シティ銀行との間の貸付契約の無効を主張して、民事訴訟の最中だという。東洋シティ銀行は、主人公の右近がかつて在籍していた大淀銀行と他の都市銀行が合併してできた銀行である。
右近が話を聞いてみると、東洋シティは、大淀銀行時代の宮入悠紀子への貸付を、何の関係もなかった右近になすりつけようとしているのだ。右近は怒りのあまり、宮入の弁護士・佐伯千鶴子とコンタクトを取り、身の潔白を晴らそうとする。
そして、宮入や佐伯の話を聞いているうち、大淀銀行がいかに不正でめちゃくちゃな過剰融資をしていたかが明らかになり、右近は、怒りと正義感から、真実を明らかにしようと積極的に訴訟に関与していく。

本書は、これまでの黒木さんの作品と同様、リアリティに満ちている。銀行業務と民事訴訟と自ら経験した人以外に書くことのできない、正確で緻密な知識があれでもかこれでもかと満載だ。
ぼくは黒木さんが都市銀行の出身であることは知っていたが、民事訴訟に巻き込まれた経験もあったのだろうか、と読み始めた当初不思議に思ったが、下巻に付された解説(小なぎ治宣)を読んで疑問は氷解した。解説では以下のように述べられている。

「実は本作にはモデルとなった実際の事件があったのだ。旧三和銀行が脳梗塞で認知症状態になった資産家に24億円を融資して裁判で争いになった事件である。そして、作者もまた、旧三和銀行に勤務した経験を持つ。
とここまで書けば、もうお分かりかと思うが、本作での右近のモデルは作者自身だったのである。右近の怒りは、作者自身の実体験に基づく怒りでもあったのだ。」

このように、本書は黒木さんの実体験の基づくノンフィクション性の強い小説なのだ。

本書を読めば、バブル時代の日本の銀行がいかに強引で不正な取引に走っていたかがよく分かる。そしてバブル崩壊後の銀行の迷走ぶりにも筆が進められている。

ぼくがこれまで読んだ黒木さんの小説『トップレフト』『アジアの隼』『巨大投資銀行』はいずれも、国際金融をテーマにしたものだった。今回の『貸し込み』はもっぱら日本国内を舞台にしたもので、これまで読んだ黒木さんの小説と趣を異にしている。
しかし実体験に基づく本物の知識とストーリーの面白さは、これまでと変わりない。経済小説にありがちな余計な男女の情話が一切ないのもいい。黒木さんのファンになったぼくなどは、黒木さん以外の人の書いた経済小説は読めなくなってしまった。黒木さんはそれくらい魅力のある作家だ。

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この記事へのコメント

2010年01月06日 16:44
参考になります!ありがとうございます!
2010年01月18日 14:51
参考になります!ありがとうございます!
2010年01月25日 13:36
おすすめ☆大人向け絵本が読めるサイトです!ちょっぴりダークな世界が好きな方に♪
2010年01月28日 14:26
参考になります!ありがとうございます!

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  • 貸し込み

    Excerpt: 「銀行ではねぇ、やりすぎちゃいけないんだよ。やらないもん勝ちなんだよ。」と嘯いているので有名だった。 大淀銀行ロンドン支店が、2億ポンドの融資をして焦げ付かせた。東京の国際金融部で担当していたのが 鯵.. Weblog: 投資一族のブログ racked: 2010-03-29 21:11