宮本太郎『生活保障』(岩波書店)

宮本太郎『生活保障』(岩波書店=岩波新書)という本を読み終えた。本書は本年平成21年11月20日の刊である。
著者の宮本氏は1958年生まれ、現在、北海道大学大学院教授である。ぼくが宮本教授の本を読むのはこの本が初めてだが、社会保障分野に関する権威だという印象を持った。

脱線になるが、ぼくが新書を読むようになったのは、1980年代前半の学生時代のことだった。当時は今日のようにたくさんの出版社から新書が出されておらず、岩波新書、中公新書、講談社現代新書が新書御三家というイメージだったと思う。
その中で、ぼくが当時最も読んだのは岩波新書だった。中公新書は「歴史の中公」と呼ばれていたように人文科学の分野で好著が多かったが(例えば三田村泰助『宦官』、宮崎市定『科挙』など)、ぼくがいちばん興味のあった政治経済分野では、岩波新書が、中公新書と講談社現代新書を上回っていたように思う。
その頃読んだ、大塚久雄『社会科学の方法』、内田義彦『資本論の世界』、E・H・カー『歴史とは何か』といった岩波新書から強い印象を受けたことは、今でも記憶に残っている。
当時から四半世紀、25年以上が経過した。しかし今でも、特に岩波新書の新刊が出る毎月の20日頃に書店に行くと、ついつい岩波新書ではどんな本が出たのかチェックするという習慣がついている。

今年は公私ともに忙しく、あまり読書に時間を割くことができなかったが、岩波新書だけは10冊くらい読んだのではないだろうか。

さて宮本太郎『生活保障』だが、これは文句なく五つ星を付けたい好著だった。
「生活保障」というのはあまり馴染みのない言葉ではないだろうか。
本著の冒頭で著者の宮本教授は次のように述べる。

「生活保障とは何か。それは、雇用と社会保障問題を結びつける言葉である。人々の生活が成り立つためには、一人ひとりが働き続けることができて、また、何らかのやむを得ぬ事情で働けなくなったときに、所得が保障され、あるいは再び働くことができるような支援を受けられることが必要である。生活保障とは、雇用と社会保障がうまくかみあって、そのような条件が実現することである。」

そしてこの生活保障という概念は、(近年のような)社会のグランドデサインが改められる時に必要な視点だという。

本文に入り、格差が広がり、社会が分断され、従来の社会保障が機能しなくなった現状の日本社会の問題点をえぐり出すとともに、日本と反対に高福祉国家として有名なスウェーデンの実情を詳しく紹介する。スウェーデンも必ずしも順調ではなく、現在労働生産性の上昇に伴い雇用が失われるという問題に直面しているようだ。

さらに、これからの日本の生活保障を実現する方策として、ベーシック・インカムとアクティベーションという2つの道を綿密に比較検討する。ベーシック・インカムとは雇用と社会保障を切り離し、就労の有無にかかわらず一定額の現金給付を行うというやり方である。これに対しアクティベーションとは、雇用と社会保障を強く連携させ、社会保障の目的として人々の就労や社会参加を前面に掲げ、就労や求職活動を社会保障給付の条件としようという考えからである。
著者は検討の末、アクティベーションの方策を取るべきだという結論に達する。
そして、Ⅰ人々の就労や社会への参加支援、Ⅱ働く見返り強化、Ⅲ持続可能な雇用の創出、Ⅳ雇用労働の時間短縮・一時休職、という4つの観点から、アクティベーション型に属する様々な具体的な政策提言がなされる。

著者の主張・提言は、ぼくにとってはどれも納得のゆくものばかりだった。

現在の鳩山政権を担う人々はもちろん、すべての与野党の政治家、厚生労働省をはじめ公務員の人々には、ぜひとも手にとってもらいたい1冊だ。また一般の社会人や学生にとっても、今後の日本の社会保障のあり方を考える上で、大いに参考になると思う。



生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)
岩波書店
宮本 太郎

ユーザレビュー:
鮮やかに生活保障の必 ...

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