広井良典『持続可能な福祉社会』(ちくま新書)

広井良典『持続可能な福祉社会』(筑摩書房=ちくま新書)という本を読み終えた。著者の広井氏は、1961年岡山県生まれ、現在、千葉大学法経学部教授である。
本書は2006年7月10日の刊だから、出版後3年半を経過してから読んだことになる。

広井教授の本は、2000年代初頭に『定常型社会』(岩波新書)という本を読んで以来、約10年ぶりだった。『定常型社会』は、社会保障を主なテーマにしながら、思想的な背景から論じられている、やや異色な本だったという記憶がある。

さて本書『持続可能な福祉社会』は、その後の広井教授の研究と実践を踏まえて論じられた書である。
冒頭で次のように述べられている。
「本書は、『人生前半の社会保障』というテーマを導入としつつ、『持続可能な福祉社会』というコンセプトを中心にすえて、これからの日本が志向すべき社会のありようについての全体的な構想を描こうとするものである。」

ここで述べられている「人生前半の社会保障」とは、耳慣れない言葉だ。これまでの社会保障がほぼ高齢者・退職者を対象とするものだった。しかし現在の日本では、失業率が最も高い世代が2~30代であることからわかるように人生のリスクが人生の前半・中盤にも及ぶようになった。また経済格差の拡大により、人々が人生の共通のスタートラインに立つことが困難になっている。
そのような問題意識を基づき、広井教授は「人生前半の社会保障」というコンセプトを提唱し、教育や雇用に力を入れると共に、そのための具体的な政策として、相続税の強化や若者基礎年金の創設を提言する。

この「人生前半の社会保障」は、本書で論じられてことのほんの一部である。

広井教授は、これまでの社会はもっぱら「成長」を目指してきたが、今後は「成長」は困難ないし不可能になり、これまでの社会の前提が崩れつつあるという。今後は、持続可能な循環型社会が目指されるべきである。著者のいう「定常型社会」である。

こうした持続可能な循環型社会の実現に向けて、世界各国の事例や、保守主義・自由主義・社会民主主義という3つの政治哲学を参照しつつ、日本のめざすべき方向がスケッチされていく。その筆は、狭義の社会保障だけでなく、都市政策や医療政策にまで及んでいる。
本書は新書スタイルだが、そのカバーしている領域は驚くほど広く、深い。

ぼくは本書を傍線を引きながら、勉強をしている感覚で読んだ。今後も何かの機会に本書を参照し、広井教授ならどう考えているか、考えるだろうか、そんな用途に使用したい1冊だ。



持続可能な福祉社会—「もうひとつの日本」の構想 (ちくま新書)
筑摩書房
広井 良典

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この記事へのコメント

rudolf2006
2010年01月29日 09:27
アルトゥールさま お早うございます~
こちらのブログにもコメントを、と思っていましたが、連発で書くのはと思い、遅くなりました。

TVなどを見ていますと、いまだに「高度成長」ないし「成長」が可能であると信じておられる方々も多いですが、私はとてもそんな社会に戻ることはできないのではないかと思っています。

その際に必要なのは、内橋克人さんなども仰っておられますが「共生社会」ではないかと思うのです。その意味でも、上で挙げられている本で言われている「持続可能な福祉社会」こそが求められている、と私も思います。この本、私も読んでみようと思っております。

ミ(`w´彡)
2010年01月30日 17:50
rudolf2006さま
コメントを頂き、有難うございます。
広井氏の著作は、人口、経済、税収等、どの面を取っても
これからは成長が期待できないという社会に入ったことを
前提に、社会保障や税体系を構築しなければならないとい
う問題意識を持っています。
私は内橋克人さんの著作は読んだことがないのですが、広
井さんも「コミュニティ」というものを重視しています。
「持続可能な福祉社会」、アマゾンのレヴュアーの評価も
高いです。一読の価値があると思いますよ。

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