桐野夏生『緑の毒』(角川書店)

桐野夏生『緑の毒』(角川書店)という小説を読み終えた。本年8月31日刊行の新刊である。

ぼくが桐野さんの小説と出会ったのは、約5年前、『グロテスク』(文春文庫)を読んだ時だった。本ブログを開設した直後のことだ。
『グロテスク』がたいへん面白かったので、以下『OUT』『柔らかな頬』『残虐記』など桐野さんの小説を次々と読んでいった思い出がある。いずれも本ブログで記事にしたはずだ。
しかしここ1、2年は桐野さんと御無沙汰していた。本書で久しぶりに桐野さんの小説と再会した気がする。

さて本書『緑の毒』だが、川辺康之は「川辺クリニック」を経営する39歳の開業医。川辺の妻カオルも医師で、こちらは勤務医である。2人の仲はもともとうまくいっていなかった。
そこへカオルが勤務先の医師・玉木と不倫関係にあるという匿名の電話が、川辺の下にかかってきた。
川辺はある夜、カオルの勤務先に行き、玉木の姿を目撃する。
その夜、嫉妬と邪心にかられた川辺は、1人暮らしの女性の部屋に侵入し、レイプを犯す。
実は川辺は、レイプ魔で、この以前にも4件ものレイプを犯していたのだ。

ここから多彩な人間模様が展開する。
川辺のレイプに遭った被害女性は、ネットで被害を訴え、連絡を取り合う。
一方「川辺クリニック」では、看護師1人と受付女性2人が勤務しているが、彼女たちの仲は悪く、女性たち、及び川辺と女性の間では、憎悪が渦巻いている。
また「川辺クリニック」を以前川辺と共同経営していた野崎は、現在故郷に帰り、実家の病院の後を継いでいるが、そこでも問題が持ち上がっている。

本書は話があちこちに飛ぶので、ストーリーがつかみづらいように思う。
しかし、人間の心の底にある異常性を描かせては、さすがに桐野さん、天下一品だ。本書は少なくともぼくのような桐野ファンにとっては満足できる1冊ではないだろうか。
ラストでレイプ被害者がネットやツイッターを駆使して川辺を追いつめていくシーンは爽快だった。
また医療界の内部事情やルームシェアなど、社会問題が描かれているのも桐野さんらしい。

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