川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)という小説を読み終えた。
ぼくが川上さんの小説を読むのは『ヘヴン』以来だった(『ヘヴン』は本ブログでも記事にしたことがある)。
本書は川上さんにとって『ヘヴン』以来の作品らしい。

本書の主人公は34歳のフリーの校閲者・入江冬子である。
冬子は彼女に校閲の仕事を発注する石川聖とは女友達だ。
冬子が静かで受動的な女性なのに対し、聖は活発で積極的で、対照的な性格だ。
冬子は、ある日カルチャーセンターで三束さんという中高年男性と偶然知り合い、恋に落ちるというストーリーである。

本書の登場人物は、基本的に、冬子、聖、三束さんの3人だけで、それ以外は全くの脇役にすぎない。
冬子、聖、三束さんの人物像は、これまで多くの作家により何度となく描かれた類型的なものだし、ストーリーの展開も、冬子の恋の結末も、陳腐と言えばあまりにも陳腐だ。
ストーリーだけなら、世の中にいくらでもある恋愛小説の1つにすぎない。
聖が自らの人生観とか世界観を語るところが川上さんの個性なのかもしれないが、その部分も前作『ヘヴン』ほどインパクトはないように思った。

しかしぼくにとっては、どこか心に残るものがある小説だった。
それは、女性心理の繊細な描写と、細部にまでこだわった文章と言語のおかげだと思う。
本書の文章については美しいだけでなく、格調の高さのようなものを感じる。
あまりにも陳腐な設定なのに、心理描写と文章力だけで最後まで 読ませてくれた川上さんの力量は確かなものだと思う。

しかし本作は『ヘヴン』に比べてクリエイティビティに欠けることは否めないように思う。
川上さんは今、作家としての曲がり角に立っているのかもしれない。
資質はしっかりしたものがある人だと思うので、次回の作品での飛躍に期待したい。


追記 川上さんの前作『ヘヴン』についての拙ブログでの記事を、下に自己TBしました。

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