阿部彩『弱者の居場所のない社会』(講談社現代新書)

阿部彩『弱者の居場所のない社会』(講談社現代新書)という本を読み終えた。
本書は本年12月20日の新刊である(実際には17日に既に店頭に置かれていた)。
阿部氏の著書は、以前『子どもの貧困』(岩波新書)を読んだことがある。『子どもの貧困』が良書だったので、今回の『弱者の居場所のない社会』も迷わず購入した。

本書では、子どもに限定されず、ホームレスや単身の高齢世帯、女性など、広く社会的弱者にスポットが当てられる。
こうした弱者は、市場原理主義経済が原因で世帯間の格差が拡大したことにより、増加したものである。
日本では、格差社会の下方にいる人々は、もはや衣食住に不自由するまでになっているのである。

著者は「格差極悪論」の立場に立つ。
格差社会は人間関係を劣化させてしまう。
格差社会において、下方にいる人々は、劣等感を抱くとともに、信頼感が損なわれ、差別され、社会やコミュニティとのつながりを失っていく。そして健康を失い、死亡率が高くなってしまう。
ぼくが新鮮に感じたのは、格差社会においては、上方にいる人々も平均寿命が低いという指摘だ。すなわち、アメリカのような不平等な国は、スウェーデンのような平等な国よりも、平均寿命が短いのである。
また格差の大きい国は、殺人のような暴力の比率の高いことが統計上明らかになっている。
結局、格差社会は、格差の下方にいる人々だけでなく、上方にいる人々にとってもプラスにならない、というのが著者の主張だ。

では、弱者保護のため、社会保障を今より手厚くすればよいのかというと、そう簡単ではないという。
日本には欠落しているのは、社会的包摂(social inclusion)という視点だ。弱者が社会やコミュニティとつながりが持てること、本書の題名通り「弱者の居場所」を作ることが必要なのである。
著者のその主張が、ボランティア活動などを通じて自ら実体験したホームレスの実例なども交えて語られる。

本書の語り口は、著者自らが「あとがき」で述べているように、熱血的だ。
女性らしい優しさも大いに感じられる。
著者が述べているように、東日本大震災が起きて以来、あまり話題に上らなくなった格差問題(著者が述べているように、大震災をきっかけに格差が拡大する恐れが高いので、両者は実は密接につながっている)について考えてみるための好著だと思う。


追記 阿部彩氏の前書『子どもの貧困』(岩波書店)について書いた記事を自己TBしました。



弱者の居場所がない社会??貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)
講談社
阿部 彩

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  • 阿部彩『子どもの貧困』(岩波書店)

    Excerpt: 阿部彩『子どもの貧困』(岩波書店=岩波新書、2008年11月20日刊)という本を読み終えた。読み終えた感想から言うと、たいへんな力作であり、ぼくのような社会問題・教育問題と直接関係のない一般人にとって.. Weblog: クラシック音楽のある毎日 racked: 2011-12-23 20:44