吉見俊哉『平成時代』(岩波新書)

吉見俊哉『平成時代』(岩波書店=岩波新書)という本を読み終えた。本書は2019年5月21日の刊行である。
著者の吉見氏は1957年東京都生まれ、現在、東京大学大学院情報学環教授である。
今年4月30日で平成が終わり、元号が令和に変わった。これを機に平成時代を回顧する著作がいろいろと出ている。本書もその一作である。
管理人はこれまで吉見氏の著作は、『親米と反米』『ポスト戦後社会』(ともに岩波新書)の2冊を読んだことがある。これら2冊については、本ブログで書評を書いている。特に後者の『ポスト戦後社会』は良書だったという憶えがあるので、本書『平成時代』も読んでみた次第である。

吉見氏はまず、平成の30年間は一言で言うと「失敗の時代」だったと言う。失敗はまず金融を中心とする大企業の分野で顕著であるが、政治も失敗を重ね、社会も失敗したという。
また平成の日本を段階的な衰退過程と捉えるのなら、それは4つのショックによって拍車がかけられたという。4つのショックとは、第1に1989年を頂点とするバブル経済の崩壊であり、第2に1995年の阪神・淡路大震災とオウム真理教事件であり、第3に2001年のアメリカの同時多発テロとその後の国際情勢の不安定化であり、第4に2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故である。
そして、第1章で証券会社や電機産業、第2章で政治、第3章で社会、特に二つの大震災と福島原発事故、オウム真理教事件、格差社会の到来、少子高齢化、第4章で文化の各方面における日本の失敗・劣化について述べていく。
ただし第4章で2000年頃のインターネット社会の到来により文化のパラダイス転換が起きたということと、その問題点について述べられているが、管理人はサブカルチャーに無知なので理解できない個所もあった。

そして「おわりに」で東京五輪の問題点や沖縄問題、中国の台頭について述べられている。
平成の30年間に通貫しているのは、グローバル化とネット社会化である。吉見氏によると、平成の日本が不運だったのは、グローバル化とネット社会化という社会システムの基盤的変容が、ちょうど経済と人口構造の衰退期と一致してしまったことだ。他の先進諸国は、日本が90年代に経験した様々な限界を70年代に深刻に経験しており、それへの対応として社会の骨格を変化させてきた。だから90年代は欧米にとって復活の時となったのである。ところが日本は、70年代の困難を社会の骨格を変えないまま乗り切ったから、90年代に何重もの荒波が襲ってきた時、それへの対応と自らの構造改革を一挙に進めなければならないという状況に直面した。そして平成の日本はこの困難を乗り越えることに失敗したのである。
吉見氏によると、日本は人口の自然減が続く以上かつてのような経済成長は無理であり、経済・社会の縮減傾向は続くという。人口の減少を補填するために移民拡大政策を取らざるを得ない。こうしてポスト平成は、社会のあり方が根本から変容する時代になる。ヨーロッパ諸国のように多民族化するのである。

管理人は、平成の30年間をリアルタイムで経験し、職業人としての人生を歩んだ。プライベートでは結婚・息子の誕生という嬉しい出来事もあったが、職業人としてはたいへん厳しい時代だったという実感がある。それはもちろん、バブル経済崩壊とその後の慢性的な不況が背景的な原因である。多くの企業でグローバル化・デジタル化の世界的な潮流への対応が遅れ、その皺寄せが社員や関連会社に及んだ。政府の経済政策も問題が多かった。
時々起業により華々しい成功を収めた者がマスコミで取り上げられるが、それは才覚と幸運に恵まれた0.1%以下の人である。管理人の周囲には苦境に置かれ、又は過去に苦境に置かれた人が少なくない。

本書はこのように苦しい時代だった平成について、経済・政治・社会・文化の各方面からよくまとめた良書だったと思う。平成時代を振り返りそこから何らかの教訓を得るのに好適である。
誤字誤植がやや多かったのが残念。それは著者の吉見氏の責任ではなく、編集者の問題である。
平成時代 (岩波新書)
岩波書店
吉見 俊哉

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