桐野夏生『夜の谷を行く』(文藝春秋)

昨日、桐野夏生『夜の谷を行く』(文藝春秋)という小説を読了した。
本書を読んだきっかけは、先週読了し、本ブログにエントリーした桐野夏生『抱く女』(新潮文庫)の中で、連合赤軍事件について触れられていた。管理人には、桐野さんは連合赤軍事件を題材にした小説を書いていたという覚えがあったので、amazonで調べたところ本書『夜の谷を行く 』がそれに当たることが分かったので、さっそく購入し読んでみた。面白く、昨日の日曜、数時間で読み切ることができた。

本書は、連合赤軍事件のメンバーとして犯罪を犯し服役した女性・西田啓子の事件後40年後の物語である。ただし啓子は実在の人物ではなく桐野さんの創作した架空の人物である。
啓子は還暦を過ぎ、過去を隠して、東京の郊外でひっそりと一人で孤独に暮らしている。啓子と交流があるのは実妹・和子とその娘・佳絵のみ。啓子の毎日の生活の描写は、現在の日本に多数存在する独居老人のそれのようで、リアリティーがある。
ある日、啓子の元へ、活動家だった時代の知人・熊谷から電話がかかってきた。ちょうどその頃、佳絵が出来婚するという話が持ち上がり、和子母娘と啓子との間で啓子の過去を佳絵の婚約者に打ち明けるかを巡って諍いになる。このようにして、孤独だが平穏だった啓子の生活に波風が立ち始める。

管理人は1961年の生まれなので、連合赤軍あさま山荘事件をリアルタイムで見た世代である。小学校から帰宅すると、テレビにかじりついて、機動隊のあさま山荘への突入を見ていた記憶がある。あさま山荘事件事件と、その後に発覚したリンチ殺人事件は、後年のオウム真理教事件に匹敵する大きな社会事件だったのではないだろうか。
単なる窃盗のような軽い犯罪ならともかく、このようにニュースで大きく取り上げられた重大犯罪を引き起こした人物は、服役し出所して何十年が経過しても、自分の過去から逃れることはできないのだろうと思う。罪を反省しようが正当化しようが、世間は決して事件のことを忘れてくれない。本書には過去との断絶に成功した藤川という啓子の友人女性が登場するが、それは例外である。ほとんどの当事者は罪を犯した過去を背負い、ひっそりと身を潜めて残りの人生を生きなければならない。また、家族と友好関係を取り戻せる者など、ほんの一部だろう。希望というものの存在しない、孤独な人生である。

本書ではラストで、啓子の身に思いがけないところから希望が生まれる。上手いエンディングだと思う。ラストでとつぜん物語を急転させて、すぐ物語を終わりにするのは桐野さんらしい。

なお本書の中で、連合赤軍事件について少なくとも管理人は初めて聞く解釈が述べられており、その点が本作のキー・ポイントになっているが、その解釈が桐野さん独自の解釈なのか、何らかの客観的証拠の裏付けがあるのかは、分からなかった。また物語の途中で東日本大震災が起きるが、大震災がその後のストーリー展開にうまく生かされていないように思う。その点は惜しいと思う。
先週読んだ桐野さんの『抱く女』は、管理人は傑作だと思ったが、本書もそれに匹敵する出来栄えだろうと思う。管理人の好みとなると、『抱く女』だが…。
なお本書は2017年3月の刊で、まだ文庫化されていない。

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