ジャレド・ダイアモンド『危機と人類』上・下(日本経済新聞出版社)

危機と人類(上)
危機と人類(上)

ジャレド・ダイアモンド(小川敏子・川上純子訳)『危機と人類』上・下(日本経済新聞出版社)という本を読み終えた。
本書は、本年2019年10月25日の新刊である。

管理人はこれまで、ジャレド・ダイアモンド博士の著書は『銃・病原菌・鉄』(草思社)、『文明崩壊』(同)、『昨日までの世界』(日本経済新聞出版社)の3冊を読んだことがある。
その中では2000年に出た『銃・病原菌・鉄』が圧倒的に面白かった。『銃・病原菌・鉄』は人類が五つの大陸でなぜ異なる発展を遂げたのかを、生物学・地理学・言語学などの知識を駆使して解明しようとするもので、管理人は読んでたいへん感銘させられた覚えがある。
『銃・病原菌・鉄』があまりにも面白かったので、その後出た『文明崩壊』『昨日までの世界』をも読んでみた。これらも良書だが、『銃・病原菌・鉄』ほど面白くはなかったというのが率直な感想である。
この度、ダイアモンド博士の『危機と人類』という新刊が出たと知り、迷わず買って読んでみたという次第である。

本書の最初に、ダイアモンド博士が研究者人生を開始したばかりの頃、個人的な危機に陥ったことが述べられる。博士はこれをきっかけに個人的な危機について関心を持つようになり、心理療法士など危機療法の専門家が個人的危機の解決の成功率を上げるための要因を少なくとも12個突き止めていることに着目する。
そして12個の要因が国家的危機を帰結を理解する上で活用できるのではないか、という思考実験を行う。
個人的危機の解決を左右する12個の要因をベースに、国家的危機の帰結を左右する要因として次の12個を上げる。

1. 国家が危機にあるという世論の合意
2. 行動を起こすことへの国家としての責任の受容
3. 囲いを作り、解決が必要な国家的問題を明確にすること
4. 他の国々からの物質的支援と経済的支援
5. 他の国々を問題解決の手本にすること
6. ナショナル・アイデンティティ
7. 公正な自国評価
8. 国家的危機を経験した歴史
9. 国家的失敗への対処
10. 状況に応じた国としての柔軟性
11. 国家の基本的価値観
12. 地政学的制約がないこと

そして、以下の7ヶ国が国家的危機を克服する際に、上の12の要因がどのように働いたかを考察される。

フィンランド
日本
チリ
インドネシア
ドイツ
オーストラリア
アメリカ

日本については、明治維新期と現在の2回の危機について述べられている。

もちろん国家的危機に直面したのがこれら7ヶ国に限定されるわけではない。例えば、旧ソ連崩壊後のロシアや文化大革命後の中国、さらに日本も明治維新期と現在だけでなく、第二次世界大戦の敗戦直後も大きな国家的危機に直面した、と言えよう。ダイアモンド博士自らの馴染みの深い国の危機のみを取り上げ、上記12の要因が危機の帰結をどのような左右したか考察するのが、本書の主目的のようだ。
なお現在の日本と、現在アメリカが陥っている危機は未解決のままであるが、ダイアモンド博士は上記12の要因に基づき様々な提言を行っている。

さらに本書の最後で、一国家に止まらない世界的大問題として、核兵器の使用、世界的な気候変動、世界的な資源枯渇、世界的な生活水準の格差の4つを上げ、上記12の要因による解決が可能か考察している。

管理人が本書を読んだ感想は、さすがダイアモンド博士だというものである。博士は7ヶ国の歴史や危機について、多大な事実の分析に埋没することなく、大局的な観点から各国の危機を把握している。各国が危機を乗り切るに際し、12の要因の欠落が多いほど危機の解決が遠のくことがよく分かる。
明治維新期の日本についての考察は納得のいくものだし、現在の日本についての危機についての概ね納得できる(人口が減少すると資源が少なくて済むので、危機克服のプラス要因だと述べているのは疑問に感じるが)。

管理人自身はチリやインドネシアの危機については他書で勉強したことがあったが、フィンランドが第二次世界大戦時に旧ソ連の侵攻を受け危機に陥ったことや、オーストラリア人がイギリスに対して抱く複雑な感情については、本書を読むまで知らずにいた。

本書は、旧ソ連崩壊後のロシア、第二次世界大戦敗戦後の日本のような、上記7ヶ国に匹敵するような国家的危機について述べられていないのが残念とはいえ、世界的視野に立って様々な国家的危機を分析した、スケールの大きい良書と言える。ただし『銃・病原菌・鉄』ほどのインパクトはないだろうと思う。

なお小川敏子氏・川上純子氏の邦訳は非常に読みやすく、優れている。
管理人はここ数十年の日本で、外国書の翻訳が、文学と本書のような学術書の両方で、非常に進歩してきたと感じる。優れた翻訳家が次々に現れてきたということだ。嬉しいことである。

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