F=ディースカウのシューマン「詩人の恋」

シューマンの連作歌曲集「詩人の恋」は、第1曲「うるわしくも美しい5月に」で始まる。それでちょうど今の季節にいいのではないかと思い、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)、クリストフ・エッシェンバッハ(ピアノ)の演奏を聴いてみた。録音は1974年1、4月である。

連作歌曲集というとシューベルトの3大歌曲集「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」「白鳥の歌」が有名だが、ぼくはこのシューマン「詩人の恋」全16曲がシューベルトの3大歌曲集と同等かそれ以上に好きでいる。「詩人の恋」は、シューベルトの「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」と同様、若い青年の恋愛とその悲劇的な結末をテーマにしたものだけど、シューベルトと比べその感情表現はより深く、濃く、そして不安定になっている。
第1曲は美しい5月を背景しながらも、すでに恋が悲劇を終わることを暗示させる曲調になっている。第5曲あたりから感情表現は濃厚になっていく。第8曲「花が、小さな花が分かってくれるなら」で歌が終わった後のピアノ伴奏が印象的だ。続く第9曲「あれはフルートとヴァイオリンのひびきだ」はシューマンらしい奇妙なピアノ伴奏に乗って歌われる絶妙の曲だ。全16曲の中の白眉ではないだろうか。第12曲あたりから感情の沈潜が深くなり、最後の第16曲ではこの恋の物語を振り返る内容になっている。


F=ディースカウは声が美しいだけでなく、真に心をこめて歌ったもので本当に素晴らしい。彼の1970年代のDGへの録音は、特にシューベルトではぼくには演技過剰に感じられることもあるが、このシューマンの演奏は曲と主人公である若者の心情への共感に感じられるすばらしいものだ。
そしてそれと同じくらいすばらしいのが、エッシェンバッハのピアノ伴奏だ。時には繊細に、時には力強く、ピアノ伴奏の作曲の妙が「詩人の恋」が名曲たらしめていることを示している。エッシェンバッハは今ではもっぱら(?)指揮者として活躍中だが、ピアニストとしても非常にすぐれた感性の持ち主だと思う。ちょっと余談になるが、ぼくは、彼が1960年代にDGの録音したモーツァルトのピアノ・ソナタ全集を今でも時々聴いている。

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