盛山和夫『経済成長は不可能なのか』(中公新書)

盛山和夫『経済成長は不可能なのか』(中央公論新社=中公新書)という本を読み終えた。
著者の盛山氏は1948年鳥取県生まれ、現在、東京大学大学院人文科学系研究科教授である。本書は2011年6月25日の刊だから、出たばかりだということになる。

「はしがき」によれば、盛山教授は経済や財政の専門家ではなく、社会学者であり、階層問題や社会保障制度あるいは雇用構造などの研究に携わってきたらしい。
しかしこれらの問題の根源に1991年から今日まで続く長期不況があり、不況からの脱却なしに雇用も社会保障制度も階層格差問題も明るい未来を描くことはできない。しか盛山教授にとって、長期不況問題に関する専門家たちの議論には十分納得のいくものが少なかったという。そこで自分自身で問題の解明に乗り出すため、本書を執筆したということらしい。

さて本書ではプロローグで、日本経済は四重苦に陥っているという指摘がなされる。四重苦とは、
 (a)デフレ不況問題
 (b)財政難問題
 (c)国の債務残高問題
 (d)少子化問題
の4つである。そして、これら4つの課題を同時に解決したいのだが、1つを解決しようとすると他の課題の状況が悪化してしまうというジレンマにある、という。そして、実際に例えば上記(b)の財政難を解決しようとすれば、他の3つの課題の状況がどのように悪化するか、説明がなされている。

そして本論に入り、この20年間たびたび言われてきた行財政のムダ削減論の誤りの指摘、「失われた20年」の要因は何だったのかについて、いろいろな論者の主張とその当否の検討がなされる。
ぼくは、生産性低下説の誤りの指摘や円高が不況の重要な要因だったという主張など、なるほどと思わせられた。

さらに盛山教授の論は、少子化問題や増大する一方の社会保障費をどう考えるかについても向けられる。著者はこれらの問題についても「私はこう考える」とはっきりした主張を述べているので、読んでいて頭が整理された気持ちになる。

そして最後に上記の四重苦から脱却するための著者の処方箋が示される。ここに書いてしまうと、それは、国債を発行して日銀に引き受けさせ、その財政支出によりデフレを脱却して景気を上昇させてから消費税を増税するというものだ。
それだけでなく著者は、こうした方向性の実現に向けて、何年にどうするかというしっかりとした工程表を作り、それを実現していくことが必要だという。この点は正論だ。

上記のように著者の本職は社会学である。本書は、例えば財政や社会保障の「専門家」から見れば、考察が足りない点があるのかもしれない。
しかし逆に、「専門家」は木を見て森を見ない弊害に陥ることが少なくない。ぼく自身、例えば財政再建1つをとっても、多くの「専門家」がバラバラに違うことを言っているので、分からないし、あきれてしまうこともある。

本書は、社会学者という非専門家によって書かれたものとはいえ、たいへん説得力がある。「専門家」の側も、本書をアマチュアが書いたものとして軽視するのではなく、本書で述べられている主張について一考する責務はあるだろう。ぼくのような一般人にとっては、この20年間の不況についてよく整理された、たいへん良書だと思う。


追記 6月30日の閣議で、2010年代半ばに消費税を10%まで増税することが決定されたと報じられている。
盛山氏の立場からすれば、増税は必要だが、それに至るまでに景気を回復させることが必要であり、今回の政府決定は、現状では景気を回復させるための具体的な政策が不明確である以上、不十分だということになるのであろう(7月5日)。


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