白井聡『国体論』(集英社新書)

白井聡『国体論』(集英社新書)という本を読み終えた。
同書は本年2018年4月22日の刊である。著者の白井聡氏は1977年生まれ、現在京都精華大学専任講師を務める気鋭の政治哲学者である。

管理人は本ブログ中に白井氏の著作を3冊読んでいる。『永続敗戦論」(太田出版)、『「戦後」の墓碑銘』(金曜社)、『戦後政治を終わらせる』(NHK出版新書)の3冊である。
白井氏は2013年に出た『永続敗戦論』において「永続敗戦レジーム」という思考枠組みを提示した。それは、日本の支配層が第二次世界大戦の敗戦責任をアメリカから免除してもらったため、いつまでもアメリカに隷従しなければならない、すなわち永久的に負け続ける一方で、一般国民には自己の敗戦責任を曖昧化し最小限化しているというフレームである。
『「戦後」の墓碑銘』『戦後政治を終わらせる』は、この永続敗戦レジームをベースに昨今の時事問題を分析したり、同レジームの行方を占うものであった。

この度出版された本書『国体論』で白井氏は、明治以降の日本近代史について「国体の歴史」として捉えるという手法を取る。
戦前の日本は天皇制国家であった。しかし象徴天皇制に改変された戦後民主主義体制において、天皇制国家だという国体は死んだとされる。しかし本当に国体は死んだのか。それが白井氏の問題意識である。
「国体」は日本の戦前と戦後を貫通する「何か」を指し示す概念であり、1945年の敗戦に伴う社会変革によって「国体」は表面的に廃絶されたにもかかわらず、実は戦後も再編された形で生き残っている、というのが、本書での白井氏の思考法である。
すなわち、戦後の日本は、米軍という外国軍隊の恒常的・無制約な駐在を受け入れ、主権の原則が危うくされた(安保体制)。吉田茂元首相ら日本の支配層がアメリカの要求に応えたのは、共産主義への恐怖のためであったが、それは旧ソ連が崩壊し共産主義の脅威が消滅した後も存続している。このような対米従属体制を国体の概念によって把握するというのが、本書で白井氏の中心的主張である。
「天皇陛下の赤子」という戦前の国体の中心的命題が、「アメリカからの愛」という命題に改変された、というのである。

白井氏は明治以降、第二次世界大戦の敗戦までの歴史を振り返り、戦前の国体には「天皇の国民」「天皇なき国民」「国民の天皇」という3つの時期が存在したという。そしてそれと相似する形で、戦後の日本も「アメリカの日本」「アメリカなき日本」「日本のアメリカ」という3つの時期に分かれるとする。
冷戦終結後現在までの日本は、「日本のアメリカ」の時期である。すなわち戦後、 ベトナム戦争や「双子の赤字」により世界でのプレゼンスを失いつつあったアメリカを献身的に支えてきたのが日本だった。

白井氏によると、高度経済成長の終焉、東西冷戦構造の終焉、さらにアジア諸国の台頭と日本のアジアでの孤立化によって永続敗戦レジームはその前提条件を失っており、本来その清算が図られなければならない。ところが安倍政権は、逆にそれを純化する方向に進んでいる。安倍政権の唱える「積極的平和主義」などその最たるものである。

ところで、今上天皇は来年2020年4月30日をもって退位される。白井氏は、今上天皇が自らの退位に関して直接国民に語りかけた2016年8月8日の「お言葉」に強い衝撃を受けたという。それは、「お言葉」 の中に「象徴天皇制とは何か」という問いへ国民の目を向けさせ、それが戦後民主主義と共に危機を迎えており、打開への手立てを模索しなければならない、という呼び掛けが含まれていたからだ。

管理人は、本書で述べられた考えに概ね納得する。しかし、この対米従属構造を清算するに至るまでのハードルは途方もなく大きい。集団的自衛権ひとつをとっても、その撤回には法的・政治的に困難な問題が存する。ましてや沖縄の米軍基地の縮小や日米安保条約の改定・破棄など、相手(アメリカ)のある話であり、ほぼ不可能だろう。また、この対米従属構造というもの自体が、日本人のメンタリティにすっかり根を下ろしてしまっているという問題もある。
ただ現在の安倍政権が、これまでの歴代政権と比較しても極端に米国に隷従していることは事実だ。結局、アジア諸国との信頼関係を少しずつ構築することによって、アメリカべったりを少しずつ改めていくという努力が必要なのだろう。
また現状の安倍政権の極端なまでの対米従属思考について、国民一人一人が、このままでよいのか考えなければならないと思う。単にノーを唱えるだけでなく、どのような代替的な路線があるのかを含めて考えなければならない。重い問いである。



国体論 菊と星条旗 (集英社新書)
集英社
白井 聡

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