石野雄一『ざっくり分かるファイナンス』(光文社)

石野雄一『ざっくり分かるファイナンス』(光文社=光文社新書)という本を読み終えた。著者は1968年生まれの財務戦略コンサルタントだという。本書は2007年4月20日の刊である。

読み終えた感想を一言で言うと、素晴らしい本だと思う。名著と言っても過言ではない。企業の経営者・財務担当者にとっては必読書と言ってよいのではないだろうか。

本書は第1章で、会計(アカウンティング)と財務(ファイナンス)の違いを説明することから始まる。第1の違いとして、会計は「利益」を扱うに対し、ファイナンスは「キャッシュ」を扱うのだという。第2の違いとして会計は企業の「過去」の業績を扱うのに対し、ファイナンスは「未来」の数字を扱うのだという。そして会計について簡潔にして要を得た説明がなされる。この個所も、例えばバランスシートの右側が資金をどのようにして調達したかを表し、左側が資金をどのようにして運用しているかを表している、とズバリ言い切るなど、読んでいて痛快だった。

次に第2章で、いよいよファイナンスの話に入る。著者はファイナンスを、投資に関する意思決定(投資決定)、その投資に必要な資金調達に関する意思決定(投資決定)、そしてその運用して得た資金をどう配分するかという意思決定(配当政策)、という3つの意思決定に関わるものだとする。そしてこれら3つの意思決定の目的は「企業価値の最大化」だという。そしてリスク・リターンの原則や、企業のコストには負債コストと株主資本コストの2種類があり、ともに期待収益率の裏返しであることや、企業価値を高めるためには負債コストと株主資本コストを加重平均した資本コスト(WACC)を低くすることが重要である旨が説かれる。このWACCという概念は企業経営にとって非常に重要である。なぜなら企業経営者の使命は、単年度ごとに企業価値を高めること、すなわちEVAスプレッドを高めることにあるが、EVAスプレッドは投下資本収益率(ROIC)マイナスWACCである。とすれば、企業経営者にとっては、WACCを下げることが、投下資本から得られる収益を上げることと同等に重要性を持つのだ。そしてWACCを下げるためのIR活動の重要性などが説かれる。
この第2章は秀逸で、この個所だけでも十分に買って読む価値はあると思う。

第3章以下でも、お金の現在価値・将来価値の考え方や、企業価値の算定方法、あるいは投資判断の基準となるNPV法とIRR法等について、非常に興味深く有益な話が、非常に分かりやすく説かれている。例えば、ぼくは会社員時代にNPVとIRRについて勉強したことがあるけけれど、これらが具体的にどのような内容を意味するのか、どうしてNPVがIRRよりまさっているのかについて、こんなに分かりやすく説明した本は見たことがなかった。

本書は新書なので値段は税引前で700円しかしないが、内容はゆうにその十倍の7000円分の価値はある。そしてこれだけの内容がこれだけ分かりやすく述べられたというのは、ちょっと信じられないような出来事だ。繰り返しになるが、素晴らしい本である。


追記 「新書」がブームになって10年くらいだろうか。今では大手出版社はどこでも毎月4冊以上の「新書」を出版するようになった。その中で、「光文社新書」は光っているのではないだろうか。少なくとも社会科学の分野では「光文社新書」は秀作がそろっていると思う。(12月31日記)

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