シェリング/ヘブラーのベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第7、8番

今日も爽やかで良い陽気の1日でした。美しく華やかなヴァイオリンは、今日のような春の1日に聴くのにちょうど良いのではないでしょうか。
そこで昨日のシューマンに続き、今日もヴァイオリン音楽です。今日はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調作品30の2と、同第8番ト長調作品30の3です。演奏は、ヘンリク・シェリング(vn)とイングリット・ヘブラー(p)です。録音は1979年8月と6月で、Philipsの原盤です。

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタと言えば第5番「スプリング」と第9番「クロイツェル」が突出して有名で、実演で演奏される機会もこれら2曲が圧倒的に多い訳ですが、この両者に挟まれた6番から8番までの3曲、すなわち作品30の3曲は相当な佳曲なのではないでしょうか。
少し脱線しますが、管理人はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは第1~3番や第10番も佳曲だと思っています。なのでベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのCDを買う場合、「スプリング」「クロイツェル」の組み合わせを買うことはありません。必ずヴァイオリン・ソナタ全集を買うことにしています。

さて今日聴いた第7番と第8番ですが、前者は急・緩・急・急の4楽章構成、後者は急・緩・急の3楽章構成を取ります。両曲とも緩徐楽章が極めて美しいのです。とりわけ第8番の緩徐楽章の、歌謡的で息の長い旋律をヴァイオリンが奏でていく個所はまさに絶美です。また第7番の緩徐楽章もデリケートで穏やかで美しいものです。共に今日のような麗しい春の1日に聴くのにふさわしい楽章です。
また両曲とも、急速楽章は活発で楽しく聞こえます(短調で始まる第7番の第1楽章はそうではないかもしれませんが)。とりわけ両曲の終楽章はそうです。

楽章ごとの性格付けがはっきりしているのもこれら両曲の特徴です。ヴァイオリンとピアノに対等の比重が置かれていることと共に、ベートーヴェンがモーツァルトのヴァイオリン・ソナタの模倣から完全に脱し、ヴァイオリン・ソナタの分野における自己の様式を確立していたことを示すものです。

シェリングとヘブラーの演奏は聴けば聴くほど味わい深いものです。シェリングの音色は、華やかでも豊かでもありませんが、澄み切った美しさをたたえています。また演奏スタイルは上品・端正で、フォルムからの逸脱とは無縁で、古典的・禁欲的です。このようなシェリングの演奏は、ベートーヴェンのこれらのソナタの演奏に非常に適合しています。
ヘブラーがシェリングの古典的で端正なスタイルをそのまま維持させようと、上品で抑制された伴奏を付けているのも、好感が持てます。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタで名演を残した両者の相性の良さを物語るものです。
管理人は本録音を、タワーレコードが2012年にシェリング/ヘブラーのベートーヴェンのソナタ全集を復刻した際に入手し、初めて聴きました。
本演奏が録音された1980年頃のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタというと、往年のオイストラフ/オボーリン盤という評価の確立した横綱格の名演が存在していた上、シェリング/ヘブラーより若い新世代のパールマン/アシュケナージ盤が既に登場していた頃のはずで、本シェリング/ヘブラー盤は相対的に目立たない位置に置かれたのではないかと思います。しかし2010年を過ぎて初めて本録音を聴いてみて、昔は地味でもいい録音が色々とあったのだなあと実感したのを憶えています。

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