バルトークSQのブラームス「クラリネット五重奏曲」

今日の東京は曇り後雨の空模様で、気温は低下しました、秋が深まってきただけでなく、冬の到来が近づいてきたことが感じられる1日でした。
今日は、ブラームスのクラリネット五重奏曲ロ短調作品115を聴きました。
演奏は、バルトーク弦楽四重奏団とベーラ・コヴァーチュ(cl)です。1974年12月のハンガリーのHungarotonレーベルへの録音です。

ブラームスのクラリネット五重奏曲は、1891年というブラームス(1832-1893)が亡くなる2年前の作品です。
晩年のブラームスが、R・ミュールフェルトというクラリネット奏者に触発されて4曲のクラリネットのための室内楽曲(クラリネット五重奏曲、クラリネット三重奏曲、2曲のクラリネット・ソナタ)を作曲したという有名な逸話があります。クラリネット独特の柔らかく深い音色がブラームスを魅了したとともに、最晩年の彼が自らの心境を表現するのにちょうど適合したということなのでしょう。

ブラームスの晩年の作品は、独特の憂愁と寂寥感・諦観にあふれているとともに、何ものにも縛られないある種の自由さをも感じさせるものがありますが、本曲クラリネット五重奏曲にもそれは言えます。
急・緩・急・急の4楽章構成を取りますが、全曲を通じて陰鬱な気配の漂う曲です。
第1楽章は印象的な旋律で始まりますが、柔らかいと同時に憂いが満ち溢れ、深く暗いものが感じられます。第2楽章は弦楽器の支えにのったクラリネットによって、孤独感・諦観が語られ、或いは作曲者が自らの人生を回顧しているかのようです。管理人はこの第2楽章を特に愛好しています。第3楽章は事実上のスケルツォで明るくなりますが、終楽章は、中間部で高揚するとはいえ全体として物悲しさに溢れています。曲は寂寥感に包まれて消え去るように終わります。
今日のような晩秋に聴くのにふさわしい曲だと言えると思います。

本曲は、モーツァルトのクラリネット五重奏曲と並ぶ、クラリネットと弦楽四重奏のために書かれた作品の傑作として知られていますが、モーツァルトのクラリネット五重奏曲とブラームスのクラリネット五重奏曲は性格を全く異にしているように思います。モーツァルトのクラリネット五重奏曲が天国の美しさとそれと裏腹の哀感が感じられる曲なのに対し、ブラームスのクラリネット五重奏曲はひたすら人間的な憂いと孤独の感情が感じられる曲のように思います。
同じクラリネットという楽器を用いても、モーツァルトとブラームスとは、表現しようとしたことがまるで異なっていたということなのでしょう。

さて演奏の方ですが、バルトーク弦楽四重奏団はブラームスを得意にし、Hungarotonレーベルにブラームスの弦楽四重奏を用いた全ての作品(3曲の弦楽四重奏曲、2曲の弦楽五重奏曲、2曲の弦楽六重奏曲、ピアノ五重奏曲、クラリネット五重奏曲)を録音していました。
同四重奏団はハンガリーの団体らしく野生的なスタイルが持ち味ですが、本曲の演奏を聴いていると情感がたいへん豊かで、人間味に溢れ、すぐれた表現力だと感じます。コヴァーチュというクラリネット奏者は、名前からハンガリーの奏者だろうと思われるくらいでそれ以外何も分かりませんが、本録音ではブラームスの本曲に適合した、しみじみとした演奏を聴かせてくれます。
本演奏は、「レコード芸術」誌やその関連本では取り上げられていないように思いますが、ブラームス晩年の内面を表現した本曲の性格にふさわしい名演だと思います。

追記 本曲については、過去にブダペスト四重奏団とオッペンハイムによる演奏の記事を書いたことがあるので、その時の記事を自己トラックバックします。

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